あるプロジェクトの物語
宮原建設の主な職種
営業 | プロジェクトの総責任者。 発注者の要望を伺い、設計・現場監督に的確に情報を共有。 全ての関係者との折衝を行い、プロジェクト成功に向けて伴走する。 |
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設計 | ※プロジェクトによっては施工のみの場合もあります。 発注者の思い描くイメージを図面に起こす。 法規の確認、公共機関への申請等も行う。 |
現場監督 | 建設現場のトータルコーディネーター。 原価管理や工程管理等を行う。 |
総務 | 皆が気持ちよく働けるように、会社全体の業務をサポート。 主に経理、労務管理、事務処理などを担当する。 |
今回のプロジェクトの登場人物
2017年11月10日。熊本県八代市にある「ハローワーク八代」がリニューアルした。
それは創業67年の歴史を誇る宮原建設の新たな挑戦の幕開けだった。
落札まで
正直、取ってしまったか…と思いました。
国交省が発注者となるハローワーク八代。
この案件の入札に向けて、営業を担当する宮原と、現場監督主任を担当する佐川の最強タッグが組まれた。工事を落札できるのは1社のみ。入札を希望してから、書類準備に追われる日々が始まった。- 宮原
- 調査のために持っていく資料が膨大で……。調査官が細かいところまで問いただすんですよ。コンペは5、6業者だったんですけど、ほとんど辞退されていましたね。
落札はコンペ形式だった。複数の業者が入札を希望したが、結局どの業者も金額が合わず、また、熊本地震も重なり、国交省は一度入札自体を取りやめた。
- 宮原
- 誰でも入札は希望できるんですが、金額が安いだけじゃ落札できないんです。会社の評価も加味される。金額だけでも、実績だけでもダメなんです。
- 佐川
- 国土交通省の仕事は通常の3倍ほど大変なんですよ。会社から現場監督を何人も連れていくということでした。私は正直、大変になるから取ってほしくなかった (笑)
佐川の思いとは裏腹に、2度目のコンペで落札することができた。予算だけでなく、これまでの会社の実績が功を奏した。その後、契約や協力会社との打ち合わせで、佐川と宮原は県外を飛び回った。
- 佐川
- 国交省の仕事はなかなか取れないんですよ。うちの営業は最後まで頑張った。僕は正直、取ってしまったか…と思いましたけどね(笑)
- 宮原
- よっしゃー!という感じでしたね、本当に。苦労が少し報われました。今回の現場監督主任は、佐川専務に是非お願いしたかったんです。先方の指示通りに、全てを網羅できる方ですから。
ハローワーク八代の工事は、今まで以上に熱が入った。「とにかく工事をきちんと完了させなければ、と思っていました。国交省の厳しい指導についていかないといけないですからね。」と佐川は当時を振り返った。佐川の補佐として、ベテランの現場監督が2人付いた。
着工
結局2本しか取れなかったんです。
大きな問題が立ちふさがった。既存建物の解体が終わっていたが、地面に巨大な杭が残ったままになっていたのだ。その数なんと9本。設計担当の指示に、佐川は難色を示した。
- 佐川
- 最初は5mほど地面を掘り進めて、杭が見えたらケーシングという機械でキャッチして取ろうという話だったんですよ。でも八代は海岸が近いので、2mも掘ったら地下水が溢れ出てくる。「取るのは難しいです」とお伝えしました。
既存建物の杭は、地面より6m下に打ち込まれていたものだった。潮の満ち欠けで地下水の高さが変化する八代の土地では、数年前に打ち込んだ杭が動いている可能性がある。不確定要素がある状態で掘り進めていくのは難しいと佐川は感じた。
- 佐川
- 結局2本しか取れなかったんです。
「穴を掘る場所を変えて取ってみては?」と先方の設計担当は案を出した。しかし、一度穴を掘ってしまうと、地盤の弱いところに力が作用してしまうため、地面の奥深くで穴が繋がってしまうのだ。そのため、他の方法を考える必要があった。
- 佐川
- 建物の杭を打つ時に、セメントを混ぜながら土を枯渇させるんです。だから、杭が残っていても次のステップで粉砕できるだろう、ということで実践しました。粉砕させて、次の杭と一体化したので問題ない、という案で設計担当と話がまとまりました。
施工
衣装ケース3箱ぐらいの量になりました。
佐川が書類作成を中心に、ベテランの現場監督2名で現場の指揮を執った。進行の中で意見が割れることもあったが、議論を重ね、ベストな方法を都度考えた。
会議は毎日、週一、月一と様々な業種の方と行い、関係者も多いため連絡漏れがないようにした。現場は常に状況が変化し、危険な状況もたびたび起こる。そのため事故のないように朝礼でのKY活動(危険予知活動)は徹底して行った。佐川は現場の進行を行う上での苦労をこう語った。
「営業、書類管理、現場管理と、役割分担がしっかりとできたんです。それが成功要因です」と佐川は笑う。また、宮原建設は周囲への配慮も欠かさない。植栽の草刈りを行うなど、周辺地域の清掃にも力を入れた。
- 佐川
- 書類作成に関して、工事写真の撮影は宮原部長にも手伝ってもらったんです。とても厚い取扱説明書を作らなければいけなかったので。衣装ケース3箱ぐらいの量になりました。特に最後の2週間は追い込みましたね。
- 宮原
- 現場にはよく顔を出していたんですよ。佐川専務は、平常心でいらっしゃったんですけど、状況を聞けば尋常じゃないぐらいの書類作成に追われていて……かなり大変そうでしたね。
- 佐川
- 宮原部長は涼しげな顔して書類作成をこなすからね。助かりました。
- 佐川
- 進行で苦労したのは書類作成です。国交省の工事は他の工事に比べて書類チェックが厳しいので、少なくとも各種別工事の着工2週間前には提出しておかなければいけない。先手先手の行動が必要でした。
表彰
本当にホッとしましたね。
- 佐川
- 目を輝かせて見てくれましたね。普通は仕上がった段階での見学しかないのですが、工事中の現場を2日間に分けて見学を行ったので興味はあったと思いますよ。参加者の子らは自転車で来ては元気に挨拶してくれて……あれは心が和みましたね(笑)
- 宮原
- 工事中の建物を見ることが初めてだったんじゃないかな。結構女性が多かったですね。
2017年11月10日。最後の追い込みを経てついに、「ハローワーク八代」が完成した。工事日数なんと446日。完成を全員で喜んだ。
- 佐川
- 本当にホッとしましたね。今考えてもその言葉しか出てこないです。ずっと神経張って仕事してましたから……肩の荷が下りた、そんな感覚です。
- 宮原
- やっぱり完成の時に一番のやりがいを感じますね。たぶんそこは営業も現場も同じです。発注者と喜びを分かち合えることも嬉しいですね。
工事後に講評された行政からの評価点に、佐川たちは目を疑った。
83点という高得点。
そして、国土交通省九州整備局局長表彰「優良施工業者(建築部門)」が宮原建設に決まった。
それは宮原建設と協力会社の技術と結託が国から評価された瞬間だった。
- 佐川
- 社長が一番喜んでくれたから、それが一番嬉しかったな。「よくやった」と何度も何度も褒めていただいた。それが本当に嬉しかった。
- 宮原
- 基本は70~75点の間で評価されることが多いんですね。良くても78点とか。驚きましたね。書類の期限を守る、環境を守る、あとは高校生の見学に協力したことも高評価に繋がったかなと思いますね。
九州整備局で行われた表彰式には社長と佐川で向かった。「最初は問題なく完成させることに頭がいっぱいでした。でも、最後にこんな嬉しいプレゼントを頂いた。報われました。」と佐川は笑った。感謝状の重みを改めてかみしめた。
今後
自分が亡くなった後も、建物は残りますから。
「後継者を育てたい」と佐川と宮原は口を揃える。宮原建設の長年培ってきた技術を発展させるためには、次世代の大きな力が必要不可欠なのだ。「今までよりも一層、会社全員で育成をしていく必要がある」と宮原は語る。
- 佐川
- 若手には早く一人前になってほしいと思います。自分が持っている技術は全部教えて、同じ失敗を繰り返さないようにサポートしていきたい。熟練の技、って言ったら恥ずかしいですけど、いろいろと教えていきたいですね。
今、宮原建設に求められる人材はどういった人なのか。2人はこう話す。
- 佐川
- 自分たちの技術を3年ぐらいで任せられる人が出てくるといいなと思いますけどね(笑)。でも、自分たちもその気持ちでやってきた。気持ち次第だと思います。
- 宮原
- 発注者のご要望は多種多様なので、柔軟に対応できる方がいいですね。よい方向に物事が進むように、前向きに取り組まれる方は、いくつになっても成長し続けられます。日々勉強です。
- 佐川
- 建設業は自分たちの働きが形に残ります。記念碑に名前を彫って「お父さんが作ったんだよ」と子どもたちに伝えられることも魅力ですね。
- 宮原
- 地域に在り続けるものに携われることは嬉しいですよ。自分が亡くなった後も、建物は残りますからね。
宮原建設の技術力を最大限に発揮して挑んだ今回のプロジェクト。
経験を培い、未来へと繋げていく。
宮原建設の次なる挑戦は、もう始まっている。